七本鎗しちほんやり(冨田酒造)滋賀県


冨田酒造の酒蔵

【冨田酒造と木之本について】
清酒『七本鎗-しちほんやり-』で全国にその名を轟かせる冨田酒造は西暦1534年(天文3年)頃の室町時代に創業を始めた日本でも屈指の歴史をもつ酒蔵。蔵を構えるのは、琵琶湖の最北端で旧北国街道沿いの宿場町、近江国は長浜市木之本です。木之本は北国街道の宿場町として開きましたが、”木之本のお地蔵さん”で有名な木之本地蔵院の門前町としても賑わいました。宿場町として大きく栄えた木之本は江戸時代には参勤交代で多くの人々が行き交い、この地で七本鎗を嗜んでいたと思われます。

今でこそ交通が発達して旅人の数は少なくなりましたが、木之本に根付いた「七本鎗」は雪が降り注ぐ湖北の地で昔ながらの厳寒仕込みに取り組んで おられます。また町並みには油屋・醤油醸造元・造り酒屋などがあり、裏通りには紅殻格子の町屋や長屋門なども見られて、風情がある古き良き町並みです。

守るべき部分は変えずに守り、
変革する部分は果敢に挑戦する。

【勇敢な七人の武将たち】
銘柄「七本鎗」は、「賤ヶ岳の七本槍」に由来しています。冨田酒造が蔵を構える木之本にほど近い場所に豊臣秀吉と柴田勝家が戦った場所で有名な「賤ヶ岳」があります。この賤ヶ岳で勝利した秀吉方で特に勇猛果敢な働きによって秀吉を天下人へと導くきっかけとなった七人の若武者たちを「賤ヶ岳の七本槍」といいます。七本槍筆頭といわれる福島正則、加藤清正、加藤嘉明、脇坂安治、平野長泰、糟屋武則、片桐且元の豊臣秀吉の七人の子飼いの武将たちを指します。このことから七本鎗は「勝利の酒」、「縁起の良い酒」というおめでたい意味も兼ね備えています。

冨田酒造の酒蔵

【魯山人が愛した七本鎗】
冨田酒造を伝える上で欠かすことのできない存在が、芸術家であり当代有名な美食家でもある「北大路魯山人」です。1913年、北大路魯山人がまだ福田大観と名乗っていたころ、長浜の紙文具商人の河路豊吉に才能を見込まれて長浜をはじめとした湖北地域に逗留していました。冨田酒造第十二代当主の冨田八郎と交流があったため、蔵元店内に掲げられている『七本鎗』と『酒猶兵』の作品を残しています。「酒猶兵 兵不可而不備」=酒はなお兵の如し。兵は一日たりとも備えざるべからず。「酒はあたかも兵と同じである。一日として手元に備えておかないわけにはいかない」の意。このことから魯山人は七本鎗をこよなく愛し、一日として手元においていなかった日はなかったのでは…と感じます。また、篆書に親しんだ魯山人が彫ったのは、木偏の「槍」ではなく、金偏の「鎗」です。以来、冨田酒造では一部のラベルに魯山人の手による「七本鎗」の文字を用いています。

冨田酒造の酒蔵

【目指すは100%滋賀産の骨太な日本酒!】
「地元の酒米を使い、ブレンドせずに単一品種で醸すこと。極力濾過を行わずに、米の旨みをしっかりと残し、それをまとめる酸がお酒の骨格を作るような食中酒」と第十五代当主である冨田専務は語ります。それをカタチに表すために特に精魂込めて取り組んでいる酒米は、滋賀県で有名な玉栄(たまさかえ)と滋賀渡船6号(しがわたりぶね)です。以前の七本鎗は県外の美山錦や五百万石を使用して酒造りをおこなっていましたが、冨田専務が欧米を訪れた際に”地のお酒”に感銘を受けて。他所では真似できない「地」の酒を徹底して造ろうと考えられました。そして考え抜いた結果が滋賀県が奨励している玉栄を基としてお酒を造ることでした。冨田さんは地元篤農家とタッグを組み、モノ作りネットワークをますます強力にしていきます。

また、米に理想の重きを置くにつれて品種の特性を全面に出すには「麹米」「掛米」を同じ品種で製造しています。様々な精米歩合で試行錯誤を繰り返し、玉栄と地元の奥伊吹山系の伏流水で現在の七本鎗を確立させていきました。特定名称の約半数以上が玉栄になるほど、冨田酒造では力を入れています。もう一つの滋賀渡船6号は明治28年に滋賀県で開発されましたが、その栽培の難しさから一旦は途絶えてしまいました。しかし、2004年に幻の酒米となっていた渡船の種もみが農事試験場で発見されたため、復活に成功しました。この滋賀渡船は系譜をたどってみると山田錦の親系統にあたるため、現在では滋賀ブランドにしようとする動きが県内で広がっています。「一度途絶えた明治時代の酒米でお酒が造れる」というロマンにひかれて冨田専務も平成19年より滋賀渡船を使用しています。

自然に恵まれた木之本は一年を通じて冷たくて良質な霊水と名高い軟水が奥伊吹山系の伏流水として豊富に井戸に湧いています。冨田酒造はこの水を仕込み水とし、地元滋賀産の酒米と組み合わせることによって、それぞれの地に根付く正真正銘の地酒を醸しています。これからも冨田酒造は地元滋賀県の風土、特性、食材を活かすことを考え、その時代の流行りには乗らず、食事中に生きてくる不動の味を築くことに挑戦されていきます。

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