酒を知る秋鹿若鹿会~大阪の地酒「秋鹿」の蔵開き~

秋鹿の魅力について

秋鹿の魅力について

江戸時代から「下り酒」として高く評価されてきた大阪酒。その伝統を受け継ぐ酒蔵の一つ秋鹿酒蔵は、1886年の創業以来、大阪府能勢町で酒造りを続けています。

自社栽培の米にこだわり、米作りから酒造りまで「農醸一貫」の姿勢を貫き、純米酒だけを醸しています。その濃醇な味わいと心地よい酸味は、大阪の飲み手を魅了し続けているのです。

初めての蔵開き

初めての蔵開き

秋鹿酒蔵は今まで蔵開きをしていませんでしたが、蔵リニューアルを機に2日間限定で開催することになりました。

テーマは次世代を担う蔵人と若者たちの挑戦です。このイベントは「若鹿会」として、大阪大学の地域活性化サークルが企画運営します。秋鹿酒蔵七代目、奥航太朗さんをはじめ、近隣地区の若者たちが情熱を注いだ蔵開きになるでしょう。

蔵見学、秋鹿の日本酒飲み比べ、飲食店ブース、音楽ステージ、好きな秋鹿のプレゼン大会、落語会など、盛りだくさんのイベントが企画されています。今回はその蔵開きに参加し、秋鹿酒蔵の魅力をレポートします。

能勢町のイベント会場の様子

能勢町のイベント会場の様子1

秋鹿酒蔵がある能勢町は、梅田から約1時間で到着できる自然豊かな場所です。周辺は美しい田んぼに囲まれ、人と自然が共生する里山の風景が広がっています。爽やかな風と涼しげなせせらぎが流れる様子に癒され、大阪市内の蒸し暑さを忘れます。

能勢町のイベント会場の様子2

リニューアルしたばかりの木造の酒蔵は趣のある外観で、秋鹿のシンボルである「へのへのもへじ」がさりげなく壁面に施され、洒落た雰囲気を醸しています。

能勢町のイベント会場の様子3

会場周辺で来場者を案内するのは多くの学生スタッフです。酒蔵から少し離れた場所にある屋外会場は200名ほど人が集える広さで、オープニングイベントを待たずに、すでに多くの方が酒を楽しんでいます。

能勢町のイベント会場の様子4

こちらでは秋鹿取扱いの飲食店さんが秋鹿に合う美味しい料理を提供し、総合受付と試飲コーナーにはすでに行列ができるほどの賑わいです。

能勢町のイベント会場の様子5

会場で試飲できるお酒は15種類。市場にあまり出回っていない無濾過生原酒、自社田で作られた酒、平成30年から令和5年の新酒まで幅広く揃っており、それぞれ100〜500円といったお手軽価格で、さまざまな呑み比べが楽しめます。

限定ツアーの宿、アトリエトナリ

限定ツアーの宿、アトリエトナリ1

今回の若鹿会では、限定の宿泊企画があったのですが、あっという間に売り切れたようです。蔵元との食事会や夜の蔵見学、秋鹿の仕込み水と同じ水源の水を沸かした風呂などが楽しめる企画です。酒蔵見学まで少し時間があったので、酒蔵近くにある宿泊施設「アトリエトナリ」を訪れました。

能勢出身のご夫婦が経営する隠れ家的な施設。入り口は蔵を改装した洒落たドリンクバーで、インテリアにも趣向が凝らされ、快適な空間が提供されています。

限定ツアーの宿、アトリエトナリ2

イラストレーターとしてご活躍の奥様が古民家の改装をデザインし、ご主人が長い年月をかけてリノベーションした手作りの宿です。能勢の地で大阪の喧騒から離れ、リフレッシュできる素敵な宿。若鹿会を通じて能勢町の新しい魅力と出会えました。

屋外会場で六代目奥裕明さんにお話を伺いました

六代目奥裕明さん

辻本:本日は若鹿会の開催おめでとうございます。すでに多くのお客様で、幸先の良いスタートになりましたね。

六代目:ありがとうございます。天気が心配でした。晴れたことで8割成功でしょう。

辻本:秋鹿さんファンには待望のイベントですね。早速ですが、秋鹿さんの酒造りについて教えてください。

六代目:秋鹿の酒造りは、酒を造るというより米が酒になるということです。良い米を作って、しっかりと米を溶かすことが重要です。

辻本:そうすることで秋鹿さんらしい旨味ができるのですね。

六代目:先日ソムリエ協会の「大阪のUMAMI」をテーマにしたセミナーでお話する機会がありました。

辻本:さすが秋鹿さん。生酛系の秋鹿を熱燗にした味わいはまさに大阪の旨味ですね。

六代目:生酛系だけでなく、普通の純米酒、自社田一貫造り、8号酵母で精米歩合80%の八反錦を醸した「八八八」など、いろいろな酒がありますよ。

辻本:楽しみです。本日は秋鹿さんの魅力をしっかりと体験します。

七代目が直々に案内する酒蔵見学

酒蔵見学1

見学前に酒蔵の入り口で七代目と少しお話しができました。

辻本:瓶詰された酒が高々と積み上げられて、目を引きますね。

七代目:うちは貯蔵スペースが少ないので、この度貯蔵庫を増築することにしました。この奥には洗米場があります。秋鹿ではすべて自社精米です。その方が後で手間がかかりません。

辻本:精米も自社ですか。さすが農醸一貫の姿勢を徹底されていますね。

酒蔵見学2

見学は人気があるため抽選制です。当選者はまず2階のホールに集まり、七代目のミニセミナーを聞いてから酒蔵見学がスタートします。

酒蔵見学3

このホールは40〜50名程度収容可能で、見学がない時間帯には学生落語研究部による落語会が催されます。ホールを出ると、早速、大きなタンクが整然と並んでいる様子が見えます。

酒蔵見学4

七代目:このタンクは醸造の最終段階である醪用のもので、仕込み後20日から25日ほどで酒になります。米をしっかり溶かすことにこだわっているので、酒粕があまりでません。粕比率は多くても30%、少ないものは10%です。それだけ米を溶かすから濃い酒ができるのです。また、米がしっかり溶けることで本来の味が活かされ、収穫年ごとの味の違いも表現できます。

鍵や取材日本酒ではワインのようにヴィンテージの違いについてほとんど語られませんが、収穫年度毎の味の違いが楽しめると、お酒の魅力がさらに広がります。

酒蔵見学5

二階から一階に降りるとそこは甑ホール。マリンバが置かれていて、見学のない時間帯に演奏会が行われます。

七代目:洗米した米をこの場所まで送り込んで、甑で蒸します。蒸した米はクレーンで放冷機に投入し、冷まします。秋鹿では放冷の工程で米に種麹をつけます。米にすべての種麹が無駄なくつくので、その結果、麹が強くなり、米が溶けやすくなるのです。

鍵や取材米を徹底的に溶かす秋鹿さんのこだわりが改めて良く分かりました。

質疑応答と特別試飲

質疑応答と特別試飲1

見学のお客様からたくさんの質問がありました。生酛造りについて、火入れについて、自社田の特徴など、七代目はすべての質問に丁寧に応答され、そのお話ぶりは明快で興味深く、あっという間に一時間の蔵見学が終わりました。

質疑応答と特別試飲2

特別試飲では、上村大町雄町の黒モヘジの4種、R5の新酒、R3、R1、H30が比較できました。色の違いは一目瞭然で、味わいも異なります。新酒はシンプルで桃のような濃厚な果実味が楽しめ、一方、熟成期間が長くなるほど味に複雑味が増していくことがよく分かり、貴重な経験になりました。

七代目が語る秋鹿のこだわりと魅力

七代目が語る秋鹿のこだわりと魅力1

七代目のご説明の中で、特に印象深かった2つのコメントをご紹介します。一つ目は自社田の特徴について、そのきれいな後味を生み出す訳が良く分かりました。

七代目:自社田では、米ぬかなどを肥料とする循環型有機栽培に取り組んでいます。この方法は一般の有機栽培に比べてチッ素の量が格段に少ないため、醸される酒はエグみが少なくなります。その結果、秋鹿らしい酸ときれいな後味が生まれるのです。

七代目が語る秋鹿のこだわりと魅力2

二つ目は、味わいの変化を楽しめる多様な飲み方についてです。ぜひ色々と試してみたいです。

七代目:秋鹿を取り扱う飲食店では、抜栓してから何年も寝かせるところもあるようです。さまざまな飲み方が楽しめるのが秋鹿の魅力です。熱めに燗すると味が広がるのは、甘酸っぱい酸があるから。3年熟成のように寝かせると伸びる酒もあります。燗だけでなく、水割り、ロックなども楽しめます。個人的には炭酸で割って燗するのも好きです。

さらなる飛躍を目指す秋鹿

さらなる飛躍を目指す秋鹿1

見学後、屋外会場で再会した六代目に未来への想いを伺いました。

六代目:今回の改装は、設備のレイアウトを整理し、作業効率を上げるとともに、貯蔵用スペースを確保することが目的です。一昨年から始まった工事は3年目を迎え、今年は貯蔵庫の建設工事が進んでいます。貯蔵庫が完成すると、奥鹿の5年熟成や10年熟成なども可能になるでしょう。

さらに深まっていく秋鹿の魅力。今回の蔵開きはそのことをファンに伝えるために開催されたのでしょう。盛りだくさんの若鹿会のイベントを通じて、丸一日秋鹿酒蔵を堪能できました。皆さんの活力が伝わり、酒を通じて若い力を結集することは素晴らしい。

さらなる飛躍を目指す秋鹿2

取材にご協力いただいた六代目奥裕明社長、七代目奥航太朗様、ありがとうございました。また、主催者をはじめ、若鹿会に関わられた皆様、本当にお疲れ様でした。ぜひ来年以降も若鹿会が発展していくことを応援します。