酒を楽しむ【第一編】~佐渡の魅力、佐渡の酒~

【佐渡島・天領盃酒造「雅楽代」の魅力に迫る】

近年、彗星のごとく現れた注目のブランド「雅楽代」。これは、2018年に当時24歳の若さで事業を承継した加登仙一さんが立ち上げたブランドです。独特の穏やかな味わいや、原酒でありながら低アルコール度数を実現するなど、興味深い特徴が多く、その詳細が明らかにされていない点も相まって、大きな魅力を放っています。

今回は天領盃酒造を訪れ、加登社長に直接お話を伺いながら、シリーズで「雅楽代」の魅力に迫りたいと思います。第一編では、その魅力をより深くご理解いただくために、まずは佐渡島の魅力をご紹介します。

世界文化遺産「佐渡島の金山」

世界文化遺産「佐渡島の金山」

2024年7月、ついに「佐渡島の金山」が世界文化遺産として登録されました。佐渡島の金山は、江戸時代から平成初頭まで金の採掘が行われていた歴史的な場所であり、日本の経済と文化に重要な役割を果たしてきました。世界文化遺産として登録されたことにより、この歴史的な遺産と共に佐渡の魅力が多くの人々に知られることが期待されます。

世界文化遺産「佐渡島の金山」

佐渡島は本州最大の島で、約280キロに及ぶ海岸線に広がるダイナミックで美しい景観は大地の魅力。東西に走る大小2つの山地、四方を海に囲まれた環境が多様な気候を生み出し、1700種に及ぶ植物が自生します。熊、猪、鹿、猿など危害を及ぼす大型の野生動物がいないため、安全な環境が保たれた大自然の宝庫です。

佐渡は日本の縮図

佐渡は日本の縮図1

佐渡は、日本各地からさまざまな文化が入り込み、長い歴史の中で蓄積した「文化の吹き溜まり」と言われています。縄文時代の遺跡も残っており、古くは奈良時代や平安時代には、政争に敗れた貴族などの有識者が流され、都の文化が持ち込まれました。

佐渡は日本の縮図2

また、江戸時代には、金銀山がある佐渡は「天領」と呼ばれる江戸幕府の直轄領でした。江戸幕府は、金銀山と佐渡一国を治めるために相川に佐渡奉行所を置き、そこには金銀山を管理する役所と金や銀を選鉱する工場が作られ、相川の町は栄華の時を迎えたのです。

佐渡は日本の縮図3

初代奉行の大久保長安が持ち込んだ能楽は佐渡の民衆に根付き、薪能という芸能が創り上げられました。佐渡の人口は現在約4万8千人ですが、江戸中期には約13万人で、そのうち5万人が金山のある相川地区に住んでいたことからも当時の活況が伺えます。

佐渡は日本の縮図4

金を輸送するのは「北前船」であり、これによって関西の町人文化も入り込みました。佐渡の歴史の中でこれらが融合し、独自の文化が創られていったのです。優美な佐渡おけさ、集落ごとに踊りが異なる鬼太鼓、花笠踊り…その息吹に触れると、なぜか懐かしい気持ちになるのは、それらのルーツが日本各地の伝統と繋がっているからなのでしょう。

佐渡の文化と共にある佐渡酒

佐渡の文化と共にある佐渡酒1

日本酒の消費量が全国1位である新潟県。中でも佐渡はとくに酒のイメージが強い。現在、佐渡にある酒蔵は5蔵ですが、いずれも一目置かれる存在です。江戸時代、金山開発によって労働人口が増える中、食料を確保するために新田開発が盛んに進められ、米の収穫量が増えるとともに酒造量も増え、佐渡酒は発展しました。一番多い時期には、酒蔵が150〜200蔵ほどあったそうです。

佐渡の文化と共にある佐渡酒2

金山のおかげで景気が潤い、固有の伝統文化が創出されました。鬼太鼓では踊りながら家々を回りますが、各家庭でお酒が出され、踊り手は飲みながら回るという風習があるように、酒は人々の生活に寄り添い続けてきたのでしょう。

佐渡の地勢が生み出す水

佐渡の地勢が生み出す水

佐渡島はS字の形状で、北側には標高の高い大佐渡山地が東西にそびえ、南側には比較的低い小佐渡山地が広がります。その中央には国中平野が広がっており、そこに人々や田んぼが集まっています。

佐渡島の形成は日本列島に比べてかなり新しく、約300〜170万年前と言われています。約3000万年前、ユーラシア大陸の東端が割れ、火山活動を伴いながら引き離され、日本列島の原型ができましたが、その当時、佐渡の地は海底に沈んでいました。その後、日本列島の北にある3つのプレートの沈む方向が変わり、日本列島がユーラシア大陸に引き戻されたことで海底が隆起し、大佐渡山地と小佐渡山地の2つの島が形成されました。長い年月をかけて、その2つの島の間に土砂が積もり、一つに繋がったのが現在の佐渡島です。

佐渡の地勢が生み出す水

海底から隆起したため、佐渡の地質には海の要素が多く、石灰岩が豊富です。そのためミネラルが多く、フランスのシャブリ地方の地質に似ています。また、火山活動の影響で花崗岩も多く、金脈や良質な水をもたらす要因となっています。

佐渡の地勢が生み出す水

一般的に、島では降った雨がすぐ海に流れてしまうので、水不足になりやすい。しかし、佐渡島は2つの山地があるため雲が発生しやすく、水資源に恵まれています。天領盃酒蔵の仕込み水は大佐渡山地の最高峰、金北山の伏流水。この水が酒の味に重要な影響を与えるのです。

トキとの共生

トキとの共生1

現在の佐渡島の農業は「トキとの共生」の下に成り立っています。もともとトキは田んぼをエサ場とする害鳥と見なされていましたが、人間による乱獲や生息環境の悪化によって、その数は大きく減少しました。1967年にトキ保護センターが設立され、保護活動が進められましたが、残念ながら2003年に日本固有のトキは絶滅してしまいました。しかし、中国から贈られたトキによる繁殖活動が続けられ、2008年には初めての放鳥に成功、現在では、約500羽の野生のトキが生息するまでに回復しています。

トキとの共生2

トキのエサ場は田んぼで、そこで昆虫、ミミズ、カエル、ドジョウなどを食べます。以前は稲作に農薬を使用していたため、トキのエサが不足し、野生で定着するのが難しい状況でした。そこで、農薬の使用量を国の基準の50%以下に定め、減農薬・減化学肥料農法を徹底しました。実際の使用量はさらに少なく、佐渡は減農薬スタンダードの地域として確立されました。現在では、合鴨農法や牡蠣殻農法などの工夫を重ね、「トキとの共生」が実現しています。佐渡の真ん中に位置する新穂地区は水田が広がっているため、多くのトキが生息しており、朝や夕方には田んぼでエサを食べる姿が見られます。トキの羽の色は、繁殖期前の3月になるとピンク色(朱鷺色)に変わり、8月から9月にかけて冬を迎える前には黒と白に変わります。

トキとの共生3

天領盃酒蔵は、この時期に「トキロマン」という名の酒を販売します。この酒は、佐渡の子どもたちをイメージした、元気ハツラツとした甘酸っぱい味わいが特徴です。トキとともに佐渡の子どもたちが力強く成長していくことを願う思いが込められています。

天領盃酒蔵の魅力に迫る

天領盃酒蔵の魅力に迫る

日本屈指の酒どころ新潟県佐渡。その地で果敢に酒造りに挑戦している若き蔵元加登仙一さん。2023年酒造年度全国新酒鑑評会で2年連続となる金賞を受賞し、関東信越国税局鑑評会でも優秀賞を獲得。また、2023年には日本航空の国内線ファーストクラスで採用されるなど、数々の実績を積み上げ、今年は、事業承継後最大の投資をし、本格的な成長を目指す新たなステージに立っています。

次編以降、その魅力をご紹介していきます。